第16回 東京事務所のVPN|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第16回 東京事務所のVPN

 「京都の元・若旦那」という私のハンドルネームは京都で会社を経営しているゆえなのはご存じの通り。文化都市京都は大学や出版社の数も多く、結果として印刷会社も多い。しかし、それは他の地方都市にくらべればというだけで、やはり文化発信の中心地は東京だ。東京の大学や出版社の数は京都とは一桁、いや二桁違うかもしれない。東京に比べれば京都の市場規模はあまりに小さい。


 東京のみなさまごめんなさい。私どもも東京に事務所を設けております。東京の大きな市場のかけらでも当社にいただければと思っているのだ。インターネット時代はメイル営業が大流行りだけれど、やはり校正受け取りと称してクライアントのところで、世間話をするというのは営業の基本だ。東京で仕事をとろうと思えば、どうしても人のいる事務所を開設する必要がある。ということでご容赦のほど。


 だが、ここにきて問題発生である。コンピュータが京都と東京では連携がとれないのだ。京都本社ではクライアントサーバシステムで、営業が受注情報を直接入力すれば、全社すべてで受注情報を共有できるようにしている。請求も見積もりもみんなその受注データを元にしてできるようにしてある。受注伝票や請求書控えを紙ベースで集計したり、コンピュータに入力して運用していたころに比べるとずいぶん便利になったのだが、このシステムが東京では使えない。京都と東京の間では当たり前の話だがLANが通っていないからだ。東京で受注した仕事をコンピュータに載せるには伝票を東京で書いてFAXで京都へ送り、これを京都で入力する必要がある。これは面倒だし、東京では京都で入力した情報を参照することもできない。しかもコンピュータシステムの最大のメリットリアルタイム処理にならない。同じ会社でありながら、東京事務所はことコンビュータシステムからいえば茅の外なのである。


 電子メイルやその添付ファイルを使えればある程度は情報の共有らしきことはできるが、「らしき」であって、真の統合クライアントサーバーシステムではない。もし、京都と東京を同じコンピュータシステムで使おうとすれば、銀行のオンラインシステムで使うような専用線をひくしかない。こんなこと、一介の中小企業には無理だ。


 と思いこんでいたのだが、技術はどんどん進む。簡単な方法があるというのだ。VPN(Virtual Private Network)というのがそれだ。これがまたすごい技術なのだ。私はこれを社員に紹介されるまで知らなかった。案外、VPNというのは言葉は知られないまま、広範に使われている技術かもしれない。なにがすごいといって、インターネットを使ってあたか専用線を使っているようなLANシステムが構築できてしまうのである。あの誰もが好き勝手に情報を流したり、拾い上げたりするインターネットを使ってである。これはインターネット上を流れる情報を第三者が進入・傍聴・改竄しにくくする技術のたまものといっていいと思う。


 VPNを使うと、東京事務所から京都のサーバーが完全に見える。もちろん問題となっていた受注入力も東京で入力すれば京都でリアルタイムで参照できる。逆もしかりだ。京都で組み版したDTPデータを東京のコンピュータのプリンタから出力したりもできる。これだとFAXよりも早くて安い。東京京都間のFAXなどまったく必要なくなってしまった。まだ導入したばかりで、京都と東京の間で、業務管理システムが共有できたぐらいで感激しているわけだが、これはもっと発展できそうだ。特にDTPデータは遠隔ブリントアウトだけでなく、遠く離れた事務所同士でDTPの共同作業などができてしまいそうだ。インターネットにとっては、京都と東京も、京都とニューヨークもまったく差がないわけで、もしかすると、国際的な共同組み版なんて事も可能だろう。


 これが日本に仕事をもたらす方として機能するのか、仕事が流出する方として働くのか、これから勝負だろうなあ。



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