第44回 イントラ伝票 |学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第44回 イントラ伝票

 伝票というやつは印刷屋の基本だ。事務用印刷物なとどしゃれてはいっても、伝票は伝票。どんな営業も新規開拓の最初のとっかかりは、「伝票のひとつも見積もってみるか」とクライアントに言わせることだ。この伝票、コピーの発達でずいぶん減った。いまや、伝票が残り少なくなってくれば、その伝票自体を原稿にしてコピーですませてしまうというのが、ごく普通の伝票の作り方といっていい。コピーにコピーを重ねることがしばしばだから、品質は確かによくないが、手軽で安価にはかえがたいのだろう。印刷屋みずから、総務や会計の現場ではけっこう、伝票をコピーで作ってすませていたりする。


 この伝票類もコピーのコピーではあまりに品質が悪いからだろうか、10年ほど前から、伝票雛形集の印刷を依頼されることが増えてきた。伝票の雛形を印刷して冊子にしておいて配布。必要な人は、その印刷された伝票の雛形を必要枚数コピーして使うようになっているわけだ。


「こんなやり方されたら、伝票専門の印刷屋はたまらんな」


と死んだ親父が言っていたのを思い出す。


 まあ、それでも、このやり方だと雛形集の印刷という需要はあるし、伝票そのものの組版需要だってある。


 しかし、時代はそれどころではない。おそろしいものを見てしまった。とある会社のイントラネットのことだ。


 イントラネットというやつ、インターネットよりも実用性があると最近注目を浴びている。インターネットのように、不特定多数に公開してしまうのではなく、メイル交換やWEBの呈示を、会社とか、学校とかの一定の範囲内にとどめてしまう物だ。社内LANを使うので、とにかく反応が速い。昔なら、回覧板をまわしたり、文書を配布したりというような、組織内の情報伝達をコンピュータのネットワークでやってしまうわけだ。


 実は、私はイントラネットに伝票の雛形集が載せられているのを見てしまったのだ。いくら、コンピュータ時代とはいっても、紙の上で体裁をととのえて、はんこをおさなければならないような文書はどうしてもある。つまり伝票がいるのだ。繰り返すが、今まで、伝票は印刷会社で作っていた。または、雛形をコピーして使っていた。ところが、イントラネットに、この雛形自身がのっているのだ。


 こういうことだ。ある様式の伝票がいるなあということになる・・イントラネットの伝票画像データベースにつなげる・・該当の伝票をデータベースからダウンロードする・・プリンタからプリントアウトする・・伝票ができているというわけだ。伝票の雛形データはここではPDFで提供されていたが、ワープロの原データでもよいかもしれない。


 名付けてイントラ伝票。本当にインターネット、イントラネットを含め、コンピュータによるネットワークはさまざまな使い方を生み出していく。ただ、イントラ伝票という使い方は、紙の書類の配布を否定していない点がおもしろい。ネットワーク時代というと、とにかくペーパーレスな情報配布をめざして、紙の配布は軽視というより、軽蔑しがちだ。といって、紙による書類配布が一朝一夕でなくなるはずもないわけだから、紙の書類配布をネットワークで助けるというイントラ伝票の発想が一番現代にマッチしているのではないかと思えるのだ。たぶん、このやり方は流行る。おそらく、21世紀初頭から、完全なペーパーレス社会になる21世紀中頃までおおいに流行るだろう。どちらにしても、伝票印刷そのものは消滅してしまうことになる・・・かな。



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