第89回 デジカメ大増殖|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第89回 デジカメ大増殖

 いつかは来ると思っていたけれど、ついにやってきました。全ページ、デジカメによる写真データ入稿。文字データのフロッピー入稿からはじまったデジタル入稿は、ついに図表から写真まですべてデジタルデータという時代がやってきたことになる。


 素人デジカメ写真には、プロの目からは色々文句をつけたいこともあるけれど、小さい顔写真程度ならば充分の品質だ。デジカメの性能はこの2・3年で急速に向上した。コンピュータ関係の性能向上はめざましいが、デジカメの進化はその中でも群を抜く。同時に、アナログカメラのフィルムにあたるスマートメディアやコンパクトフラッシュといった外部記憶装置の容量向上も著しく、増大する一方の画素数にも充分対応している。カラープリンタの性能も本当にあがった。最近のカラーインクジェットプリンタでうちだした写真は、専用紙さえ使えば、普通の印画紙写真と見分けがつかないところまで来ている。3年前にはじめてデジカメを買った頃には、「画面で見るならともかく、プリンタで打ち出したものはまだまだ写真には及ばない」と書いていたのだから、様変わりである。


 デジカメの普及は印刷会社からカラースキャナと呼ばれるものを駆逐することを意味する。もともとアナログの写真をデジタル化するのが、カラースキャナの機能だから、はじめから、デジタルではいってくるデジカメ写真にはカラースキャナの入り込む余地はない。考えてみると、工程のデジタル化とは印刷屋の関与する度合いが減っていく過程でもあった。文字データのフロッピー入稿は印刷屋から文選や写植といったものを消し去った。図形や線画のデータ入稿は、紙焼きや、版下フイニッシュといった作業を過去のものとした。そしてデジカメである。今まで、印刷会社の重要な作業であった紙焼き写真やフィルムをスキャンするという工程が、印刷屋から消えていく。


 しかし、印刷屋の仕事がなくなると悲観的にばかり考える必要はないと思う。最近、面白い現象に気がついた。自費出版で「写真集」をだそうかという人が増えてきているのである。以前だったら、カラーの写真集なんて価格的に高すぎて、自費出版の範疇ではなかった。それが、デジカメの普及で、自分の撮った写真をまとめてプリントアウトするというようなことがよく行われるようになり、カラーの写真集も手の届くところに感じられているようなのだ。おりしも、カラーオンデマンド印刷も急激な発展をとげている。これを逃す手はない。デジカメがカラー印刷のあらたな需要をほりおこしているのだ。


 表現手段として写真でもいいということになると、表現者の枠が大きく広がる。今までは、文章力のある人しか、出版と言うことに目を向けなかった。これが、写真の表現と言うことになると、はるかに数が多い。定年退職後の趣味としてカメラは一般的だ。日曜の午後、景勝地や寺院などでカメラをもった一団によくでくわす。彼らすべてが、表現者となるのだ。今は、紙焼きで満足している彼らもデジカメを使えば、それが「写真集」として配布できるとなれば、一気に需要は爆発するのではないか。


 デジカメはカラー印刷復権の鍵となると思う。とにかく、カラー印刷の素材となりうるような高解像度のデジカメデータが、大量に世界中のパソコンにたまっていることを指摘したい。個人レベルでも、商業レベルでも、これをひきだして印刷にむすびつけられないものか。今まで、コンピュータが印刷を幸せにしなかったのは、コンピュータによる生産性の向上の割に、仕事が増えず、価格の暴落をまねいたからだ。デジカメは、製版のコストをさげたけれども、それが表現者の需要に火をつければ、仕事を増やす効果をうみだせる。今後は文字のデジタル化の時代にワープロを味方につけた印刷業者が成功したように、デジカメを味方にする術を考えてみるべきだな。



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