第32回 小さな親切 余計なお世話|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第32回 小さな親切 余計なお世話

 今、会社では事務用コンピュータをオフコンから、WINDOWSのパソコンLANに替えるという大計画を実行中である。いわゆるダウンサイジングですな。オフコンという奴は一世を風靡したものだが、しょせんはメインフレームコンピュータの長所も短所もひっくるめて小型化したもので、ここにきて短所の方が大きくなってきた。なにせ、販売の絶対台数が少ないから、ハードの増設なんかにやたらに金がかかる上に、オフコンは用途が狭く、手紙ひとつ書くのにも別途ワープロが必要だったりする。組版用に使っているパソコンやワークステーションとのデータ互換が不便なのも致命的だ。


 でまあ、会社中に大号令をかけてWINDOWSに慣れようプロジェクトをはじめた。コンピュータにかわりがあるじゃなし、事務職の社員はオフコンとワープロに慣れきっているといっても、そんなにトラブルもないだろうと思っていた。これが甘かった。まず、マウスを使うところからつまずく。左クリックと右クリック、ダブルクリック云々というところからはじめなければならない。


 使い慣れないだけだから、そのうち落ち着くだろうと思っていたが、何日立ってもパソコンひと使うのに大騒ぎを繰り返している。何でこんなにつまずくのだと思って、私も実際に使ってみた。なるほどと了解した。最近のソフト全般にいえることだが、機能が多すぎるのだ。しかも、機能が多すぎるのを扱いやすくしようと「小さな親切」がいっぱいつまっている。ワープロ機能を使って罫線ひとつひくのにも、わざわざ自動的に作表機能が起動したりする。こっちは横に線をひきたいだけなのに、勝手に作表をはじめているのだ。それに、いちいちワンポイントアドバイスなんていう余計な窓まで開く。煩雑なこときわまりない。


 コンピュータを知らない人がはじめて習うときはそうした機能や「小さな親切」も邪魔にはならないのだろうが、オフコンやワープロのシンプルな機能に慣れていると、かえってこういう「小さな親切」があだとなる。「余計なお世話」なのだ。ワープロ時代には罫線機能を使って文字にアンダーラインをひくなんてことはよくやった。最近のソフトはそういう使い方自身を許してもらえない。アンダーラインはアンダーラインという機能をわざわざ使わなくてはならない。昔の機械は機能はシンプルだったが、使い方さえ工夫したならば自由度はむしろ大きかった。結果として一度馴染んでしまえば、むしろ機能そのものはシンプルな方が使いやすい。


 ワープロだけではない。最近の組版ソフトやDTPソフトも、どうもお節介な機能が多すぎるような気がする。あらんかぎりの機能をつめこんで、「こういう使い方をしてもらえれば、生産性があがります」と言われるのだが、裏返すとそのようにしか使えない。「もう、ほっといてくれ」といいたい。使い方はこっちで決めるから、組版ソフトはシンプルでそのかわり自由度の大きいものがいい。誰でも組めるという程度のレベルの組版はワープロで組んでイメージセッタで出せばいい時代なのだ。プロの世界では、ワープロでは不可能な思いっきり特殊な組版が要求される。それを組めるのは、使い勝手は少々悪くてもシンプルだが自由度の大きい組版ソフトなのだ。


 永遠の問題かもしれない。「とっつきは悪いが、使い込むほど使いやすくなるシンプルで自由度の高いもの」と「すぐに使えるようになるが、拘束が多くて、あまり生産性があがらないもの」の対立だ。いずれにしても、余計なお世話を焼くソフトが多すぎると思うぞ。コンピュータのソフトはみんなが使えるようになる必要はないんだから。



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