第38回 PDF登場|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第38回 PDF登場

 PDFは昨年の前半頃、印刷やDTP周辺で話題になっていた。雑誌の特集でも語られていたし、展示会へ行っても「未来を拓くPDF」というような派手な展示が目立った。インターネットやパソコン通信でも一時はPDFでもちきりだった。PDFはPortable Document Formatの略である。詳しいことはここでは書けないが、どんな機械でも組み版後の綺麗に整形されたデータがそのままやりとりでき、しかもサイズが小さくて、実際に持ち運び(Portableという所以)しやすいという、夢のファイル形式である。PDFで作ってありさえすれば、どこのどんなセッターからもだせるし、インターネットで送ったりするのも自由だということなのだ。


 昨年の夏実際に、インターネットで送られたPDF画像というのを見せられて感心したことがある。それは街の地図だったのだが、今までの画像ファイルだと画像を拡大しても、拡大されたドットが見えるだけで、解像度はすこしもあがらない。かえってみにくい。ところが、PDFだと画像を拡大しても、それにつれて線もまっすぐにひきなおされてジャギーを見せない。文字も輪郭がスムーズなまま大きくなる。いわゆるドローデータの出方をする。今まで、ドローデータの仕様をあわせるのは至難で、同一ソフトの同一バージョンでもないと、データ互換ができなかった。PDFだと、どんな機械でも、どんなソフトでも出るというのだ。もちろん、PDFのリーダー自身はインストールしておく必要があるが、それにしても、この汎用性というコンセプトはすばらしい。


 しかし、昨年後半日本でのPDFブームは一気にしぼむ。日本語フォントまわりがうまくできないのが原因とか言われたが、要するに、日本の業界はPDFの得意技であるデータの汎用性を必要とするようなレベルにさえ到達できていないのだ。PDFはデータがフルデジタルであってこそはじめて意味がある。文字も線画も写真もすべてデジタルデータになっていなければ、はなっから使えない。DTPから出力した印画紙をライトテーブルの上で、せこせこ貼り併せて版下にしているレベルでは、PDFなんて、何の意味もない。上の例であげたような汎用性のある地図画像を実現するためには、すべてドローソフトで描かれていなければならない。ハンドトレスした地図をスキャナで画像としてはめ込んでいる程度では話にならない。こりゃあ、もうほとんど絶望的ですよ。PDFの理想は高くても、こんなもの使いこなせるような会社は日本にはあまりないし、PDFが可搬性を武器にしている以上、技術の進んだ一社だけで使えたとしても何もならない。将来の技術だなと、私もそれ以上は考えなかった。


 ところが、クライアントから突然やってきたのだ。PDFが。それもインターネットの添付ファイルとしてやってきたのである。電子メイルに添えられたお言葉には、


「版下は色毎に分版して郵送しましたけれど、全体の感じがつかみにくいでしょうから、元のイメージを先にPDFで送ります」。


 送られてきた添付ファイルを解凍してPDFにし、リーダーを使ってカラープリンタから出力してみると、おやまあこれは見事なカラーカンプ!


 微妙な色の再現までは無理にしても、全体の感じをつかむにはこれで十分。そうかPDFという奴はこういう使い方もできるのかと関心した次第です。しかしまあ、最近は何でもそうですけれど、印刷屋よりお客さんの方がDTP周辺については知識が豊富なのは、ちょっとあせりますね。PDF、意外に普及は早いかもしれない。



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