第92回 アナログ機械の黄昏|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第92回 アナログ機械の黄昏

 紙版のダイレクト製版の機械がつぶれた。A3の軽オフの機械の隣において、ちょっとしたチラシや、ページ物の中扉、また年賀状までよく活躍してくれたのだが、さすがに寿命だったようだ。フィルムレスで作れる紙版のダイレクト製版は、登場時には実に革命的な機械に見えた物だが、今となってみれば、「版下を写真に撮る」という機械であり、「版下」というものが必要な点、極めてアナログな代物である。


 さて、この機械、買い換えたものだろうか。現実にまだまだ使用頻度の高い機械だし、需要も多い。価格的にもそれほど高い機械でもないから、買い換えるのもやむをえないかなと思っていた時、ある機械のことを思い出した。


 DTPの部屋の片隅で、ほこりをかぶっている紙焼コピー機なのだ。まだリース期間が残っているので、捨てるに捨てられないが、この2年間まったく使われてはいない。ずいぶん、無駄な買い物をしたものだ。といっても、すこし前まで版下フィニッシュ等という工程が存在した頃は、紙焼コピー機は印刷屋にはなくてはならない機械だった。版下をしあげるとき、図の原稿を直接貼り込むわけにはいかないし、場合によっては縮小拡大を行う必要もある。そこでこうした紙焼コピー機で、版下にふさわしいコピーを作る必要があったのだ。


 紙焼コピー機を買った5年前は、まだまだ版下は手で貼り込んで作る物だったが、それからわずか2年で情勢は大きく変わった。線画を、モノクロ2値で読み込み、DTPを使って、画面上で貼ってしまうようになったのである。また描画ソフトを使えば、スキャナで読みとる必要さえない。電子データのまま、紙という媒体を経ずに、図の電子データなるものを直接DTP側に渡してしまえばよいのである。


 こうした線画印刷工程へのデジタル技術の変化は急激で、いったん工程がアナログ切り貼りからデジタル貼り付けにかわったあと、紙焼コピー機にスイッチがはいることはすくなくなった。やがて、現像液を補充することすら面倒となり、3年前の大掃除の日、片隅に移して、それっきり使うことはなくなってしまった。


 ダイレクト製版機がこの紙版コピー機の轍を踏んでしまうのではないか。ここはダイレクト製版工程をデジタルで行うような機械を考えるべきだろう。これはつまりCTPということになる。CTP自体は何度もこのコラムで書いてきているように、当社でも備えている。しかし、それは大仰な代物で、最低サイズはA2である。軽オフにはとても使えない。第一、今のダイレクト製版機が紙版なのだからPS版を使うまでもない。もちろんA3対応の紙版CTPというのもいくらでも発売されているから、すぐにでも発注してしまえばよいのだが、気軽に手を出すには高すぎた。どちらかというと、A3の4色機などでの使用を考えた物のようで、下手をすると軽オフの印刷機より高いものになる。質的には少々劣るが、レーザープリンタのように手軽に使える安い紙版CTPもあるにはあった。残念ながら、当社で所有している軽オフには適用できなかった。


 さて、ここでアナログのダイレクト製版機を買わざるをえないのだろうか。工場現場からも強い要望もでていた。しかし、ここは我慢しようという結論をだした。今更、アナログの機械を買ったってしようがない。すくなくとも、21世紀以後、設備投資はデジタル機器に限られべきだ。もはやデジタル化による印刷技術革命は後戻りのできないところまできてしまったのだから。アナログの機械をいれたところで工程的に孤立してしまうだけだろう。「中西印刷はアナログと名のつく機械は買わない」とメーカーの営業に見栄を切った。しかしそれはそれとしてダイレクト製版機はどうしよう? 修理できません?



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