第142回 ネット印刷業の誕生|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第142回 ネット印刷業の誕生

 自分で写真集を作ってしまった。私は趣味というほどではないが、花のマクロ撮影が好きで、かなりの枚数の花の写真がパソコンにたまっている。当然、こうなるとハードディスクの肥やしではもったいない。これはと思えるものを人にも見せたくなってくる。もちろんデジカメ付録の簡易アルバムソフトを使ってプリントアウトすればいいのだけのことだが、やはり印刷屋が作るのだからもう少し凝りたい。そこでDTPソフトを使って、それらしくレイアウトしてみた。あとはインクジェット専用紙に両面プリントするだけで、もっともらしい写真集ができあがる。


 といいたいところだが、デジカメ写真をレイアウトしてプリントアウトしただけではアルバムの域をでない。何が違うのか。製本なのだ。写真「集」である限りはやはり「本」のかたちをしていなければならない。簡易製本の器具も数多くだされているが、あまりに簡易なものしかない。クリアファイルに納めたりしても、見るには必要充分だが、「本」にはならない。印刷は簡易であってもそこそこの品質は出るようになっているが、製本だけはどうにも簡易なものとプロのものとは歴然とした格差がある。印刷屋ならぱこそ、金さえ出せば豪華な製本でもなんでも可能なことは知っているが、そこでストップ。 実は、ネットを使った写真集作成サービスを利用したのだ。現在、インターネットのブラウザ上で、商品が買えたり、列車の予約ができたりするのは当然になってきている。最近の高成長ネット企業のビジネスモデルはたいていこのネットビジネスである。印刷業界にも滲透しつつあって、インターネットのブラウザ上で印刷の見積もりや発注が出来たりするサービスを行っている印刷会社は数多い。


 ネットの写真集作成サービスでは、手持ちのデジカメ写真をブラウザからこのサイトにアップロードするところから始まる。あとはこの写真をブラウザ上で、配置していくだけだ。全体のページ数は一定、一ページにいれられる写真も一枚だけ、キャプションのデザインも表紙のデザインも一定である。ずいぶん制約が多いなとは思ったが、これで部数を指定して発注を確認すると、一週間ほどで綺麗に製本された写真集が送られてくる。物はためしという位のつもりで作ったのだが、これがいい。家族や知人に配ったら、「さすが印刷屋さん」という表情をされた。価格もそれほど高くはない。


 ちなみに今回作った写真集をうちの営業に見積もりさせてみたら、とてもこんな値段ではできないという。結局、ページ数が決まっている、デザインが決まっているというところが鍵なのだ。まったくのオーダーメイドで作ったのでは、とてつもない価格になってしまうが、デザインとページ数がすべて同じということで、他人同士の写真集でも、同じ製本のラインにのせられることになる。こうした標準化で製本代はじめ大幅なコストダウンができるとみた。


 こういう商売は別にネットでなくても可能なわけだが、営業が間に介在すると、どうしても特殊な仕様を引き受けてしまいがちになるし、人件費もかさむ。ネットなら徹底的に杓子定規に仕様を統一できる。結果として個別の小さな注文をまとめて大量生産の商売にでき。いわゆるWeb2.0のいわゆるロングテール商売である。注文生産が絶対と思い続けてきた印刷業にもこういう業態がありうる、というか可能になってきたわけだ。


 残念ながらこのビジネスうちの発案ではない。よその会社の事業なのが残念無念。私はかなり以前から「今後は自費出版写真集があたる」と言い続けてきたのだが、具体的にビジネスにできない間に一本とられてしまった。



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