第105回 売れなかった製版機器|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第105回 売れなかった製版機器

 早いもので、2年も前から予定していたアナログ製版(フィルム製版)の終わる日がやってきた。奇しくも活版最後の日と同じ6月30日である。もっとも、これは6月30日が一年の真ん中の水無月の払いにあたり、年末に匹敵する節目となる日だからである。デジタル時代にも続く、京都の古き習慣。


 この日が来るのはもう何年も前から予定ずみだった。CTP全盛の今、もうアナログ製版の職人を養成することはしないことを決めていたからだ。だから最後の製版職人さんが定年退職を迎えるとともに、アナログ製版は終わる。


 残されたのは膨大なアナログ製版の機材だった。これをゴミとして捨てるのはいかにももったいない。うちは、長く活版印刷会社だったから、最初に購入した機械こそさすがに古くなってしまったが、その後も活版からオフセットに移行が進むにつれ買い足していったし、当時としては最新鋭の機械を導入し続けていたから、まだ充分に使えるものばかりなのだ。といっても、このまま記念においておくには場所をとりすぎる。アナログの製版機材は大きい上に数が多いのだ。今では考えられないが、ポジをネガに反転するだけのために特別の機械が必要だったりした。なんとか中古として売れないだろうか。


 製版機材メーカーの営業は簡単に請け負ってくれた。


「どこか、売れるところをさがしてみますよ。あんまり値段の方は期待しないでもらいたいんですけれど、これだけの状態のものだったら売れるでしょう」


 この結果はどうだっただろう。題名ですでにネタがわれてしまっているが、諸賢、ご推察の通り、1ケ月たっても、2ケ月たっても買い主はあらわれなかった。


 同じく、製版機材メーカー営業いわく


「いやあ、これほどアナログの機材の市場が冷えているとは思いませんでしたね。アナログの機械はほとんど製造中止になっているので、中古でも程度のいい機械だったら、どこか欲しがる会社があると思っていたんですが、今からアナログ製版を増強しようというところは一件もないんですねえ」


 だいたい、われわれ自身がアナログ製版をやめる決意をしているわけだから、「売れる」と考えたのが厚かましいのかもしれない。もちろん、これをもって日本中すべての会社がCTPに向けて一直線というわけではないだろう。今回わかったことは「アナログ製版を増強するところがない」というだけであって、「今ある設備をすべてデジタルに切り替えて、アナログをやめる」というようなところが何社あるかはわからない。おそらく、まだまだアナログ製版で製版されている例の方が多いだろう。


 しかし、アナログ製版の残り方はいかにも消極的だ。機械があり、職人がいるからアナログ製版機材は使われ続けているが、もうこれ以上増強しようと思っているところが一件もない以上、アナログ製版の消滅は時間の問題といえる。活版の末期と非常に状況が似てきている。あのときも積極的に増強するところがなくなった時点で、消滅へは加速度がついた。アナログ製版の消滅も意外に早くやってくるかもしれない。


 7月4日、トラックがやってきてアナログ製版の機材をつんでいった。売れるところがない以上、単なる「産業廃棄物」としての引き取りである。効率よく積むためか、トラックには半分分解してつまれていた。むき出しの回路基盤が雨に濡れている。外側のホディこそ汚れていたが、中の回路はまだまだ使えそうなほど、キラキラ輝いていた。アナログ製版機材が中西印刷でスポットライトを浴びた時期は短かったなあ。こうやってスクラップアンドビルトを繰り返しながら、印刷工場はコンピュータのみになっていくのだ。



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