第72回 恐怖のサーバークラッシュ|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第72回 恐怖のサーバークラッシュ

おだやかな昼下がり、いつものようにコンピュータに向かっていた。メイルをチェックし、経理のデータに目を通すという、日常業務である。


 ふと、メイルが使えなくなったのに気がついた。メーラーがいつまでたっても、データを読みこんでこない。


「故障かな」


 コンピュータは割合い故障する。ハード的にも、ソフト的にも故障するが、多いのはそれ以前の問題、なにかの拍子にコンピュータの設定がかわってしまってうまく動かなくなるというものだ。こういうときは、とりあえず再起動をかけると直る。が、今回だけは再起動を実行してみたが、直らない。そのうち、あちこちのコンピュータを使っている社員が、うまく動かないといいだした。これは変だと思っているうちに、サーバーの管理をしている社員から、「サーバークラッシュ」という情報がはいってきた。


「サーバークラッシュ」ということの重大性はすぐにはわからなかった。全社のコンピュータデータすべてをためておくのがサーバーだ。スタンドアローンのパソコンからサーバーを使ったクライアントサーバーシステムへと移行がどんどん進んでいる。サーバーシステムの便利さについてはいまさら言うまでもない。全社中のコンピュータをネットワークで結んでしまうということが最大のメリットだが、それぞれのコンピュータのもつデータを一元管理して、会社中どこからでも自分のデータにアクセスできるということの生産工程上の利点は計り知れない。が。。。。


 これが、クラッシュすると、とんでもないことになってしまうのだった。スタンドアローンのときに、ハードディスクがクラッシュしても、クラッシュしたパソコンの持ち主が、「ぎゃーっ」と叫ぶだけのことだ。クラッシュしたパソコンで仕事をしていた当人には気の毒だが、被害は一人分で、これは笑い話の範囲だった。サーバーだとしかし、会社中に影響する。会社中のデータが一瞬にしてなくなってしまうのだ。事態は深刻である。


 幸いといっては変だけれど、最近業務量が増大して、サーバーが複数になっていたので、会社中の仕事が全部とまる、なくなるという最悪の事態はまぬがれた。それでも過去の電子メイルが全部参照できなくなるとか、あるクライアントのDTPファイルが全部ふっとぶという被害がでた。これは困る。だいたい、パソコンのハードディスクシステムでは安全性が低く、いつ校正中のデータがなくなるかわからないというから、安全性の高い(はずの)サーバーに置いているというのに、なんたることだろうか。


 「心配しなくてもいいですよ。サーバーシステムですから、毎日バックアップはとっています。すくなくとも昨日やった仕事の分まではデータを戻せます。」


 と、コンピュータ担当の社員がいう。昨日までの分だから、今日した仕事は彼方へ消えてしまうが、まあそれはしかたがない。とりあえず、安定性の悪くなったハードディスクをフォーマットし直して、テープストリーマに吸い上げてあったデータをもとへ戻すという。もちろん、その間、仕事は全部ストップだ。それにしても、この2・3年で会社中の仕事が急にコンピュータ化しているのがいまさらながらよくわかる。ついこの間まで、コンピュータに知らぬ顔をきめこんでいた営業部の連中も、今では電子メイルが使えないのでは仕事にならない。サーバークラッシュははからずもコンピュータ社会の脆弱さを見せつけたと月並みなせりふひとつも吐きたくなってしまう。


 さて、2日も仕事を止めるわけには行かない。なんとしてもサーバーには1日で復旧してもらわないと困る。復旧作業は夜半に及んだ。夜の12時。テープストリーマから復元されるはずの1日前の環境はもどるか。・・・・もどらなかったのである。


 結局、次の日は、販社をよんで、システム交換ということになった。もちろん、交換すればいいってものではない。また半日仕事がストップ。全社パニック2日目。


 サーバーが壊れるような会社の製品はもう二度とかわんぞ。



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