第21回 デジタル画像の憂鬱|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第21回 デジタル画像の憂鬱

 先月の続きになるけど、素人DTPファイルにほとほと悩まされる原因のひとつに、写真がある。写真までもがDTPファイルに組み込みすみという例が増えてきたのだ。すこし以前まではワープロやDTPによる版下もちこみ原稿でも写真だけは別添になっていた。写真だけは、印刷屋さんにお任せしていただかないと、印刷物ができあがらなかったのである。ところが、家庭用のフラットベッドスキャナなどという代物が、安価で電気屋の店先に並ぶようになると、「写真もとりこめます」という能書きを鵜呑みにした写真入りDTPファイルが印刷屋にもちこまれるようになった。


 しかし、当然ながらそのままでは使えませぬ。写真の品質が悪すぎるのだ。いくらなんでも、数万円の素人スキャナと数百から数千万円のプロ用スキャナを同列に扱ってもらっては困る。しかたがないから、写真の部分をDTPファイルからはずして、白く抜くといった作業をやることになる。そこにプロ用のスキャナで網撮りした原稿と差し替えるのである。


 やっかいなのは、写真がはいると、たとえ素人スキャニングであろうとファイルがあっというまに肥満する点だ。肥満体ファイルは、ちょっと修正しようにも何しようにも、パソコンの反応を鈍くする上に、ハードディスクの容量をめちゃくちゃに食う。あげくの果てに爆弾が出て(マッキントッシュの悪癖)パソコンが凍り付いてしまう。


 これだけ苦労しているのに、クライアントにはどうにも理解してもらえない。お話をうかがいますと、こういう理屈なのだ。


 「DTPファイルを作って、自宅のプリンタで出力すると品質が悪いのはわかる。だからこそ、印刷屋さんに頼んで、綺麗なプリンタ(我々がイメージセッタとよぶもの)で出力してもらっている。現に文字は自宅のプリンタよりはるかに綺麗なものがでている。従って、写真も自宅のプリンタで出せば品質が悪いが、印刷屋のプリンタで出せば綺麗になるに違いない。だからそのまま出してもらいたい。」


 違うんだけどなあ。写真が悪いのはスキャナのせいであって、プリンタのせいじゃないんだけどな。この理屈にまともに反論できる営業があまりいないのも情けないが。


 さて、DTPファイルくらいならご愛敬なんだけど、先日、写真原稿をわざわざMOにしたものがやってきた。これはDTPファイル入稿ではなく、当方の電算写植で組版するのを前提にした写真原稿である。つまり、写真原稿が紙焼きやフィルムではなく、MOにはいったデジタルデータとして入稿してきたのである。おそらくある程度高価なスキャナをお持ちなのであろう。一瞬期待した。が、ファイルをあけてみたら、やはりトホホファイル(先月のこのコラム参照)だった。スクリーン角度がおかしいし、線数もあっていない、保存形式もきいたこともない代物。なんとか使えない物かとファイルをいじくりまわしたが、やっぱりどうにもならない。結局、紙焼きを提供していただき、スキャンをし直したが、写真のデジタル入稿はよほど先方と打ち合わせておかないと無理だとつくづく悟った。


 今、フィルムを使わない写真機デジタルカメラが猛烈な勢いで普及している。まだパソコンマニアのおもちゃというところだが、このまま普及が進むと、紙焼きもフィルムもなく、あるのはデジタル画像データだけという写真原稿が早晩やってくるだろう。デジタル画像としてしっかりしたものならよいが、これがトホホファイルだったとしたら・・・一体、我々はどうすればいいんだろ。



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