第113回 置いてけぼりの営業|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第113回 置いてけぼりの営業

1人1台のコンピュータ。全社を巡るLANシステム。フルデジタルワークフロー。このコラムでも何度も触れてきたように、工場はまったくかわってしまった。プリプレスでコンピュータを使わない仕事はひとつもない。印刷現場だって、工程確認は紙の指示書ではなくコンピュータである。


 工場がそうだから、営業も様変わりである。とびこみ営業なんて、もはや誰もやらない。やるのは電子メイルによるアポイントメント攻撃である。もちろん、既存のクライアントとの連絡もメイル中心になってしまった。原稿は当然のように添付ファイルでやってくるし、校正がPDFによる電子配信というのも珍しくない。製品としての仕上がりもPDF送信だけだったり、CD-ROMだったりする。


 こうなると、営業はある程度のコンピュータリテラシー(使いこなす力)がないと勤まらなくなってしまった。金槌ものこぎりも使えない大工が存在しないのと同じ意味で、コンピュータの使えない営業は存在できない。


 このコンピュータリテラシーというやつに個人差がでてしまうのは、いかんともしがたい。若い人はコンピュータを問題なくつかいこなす。最近では小学校からコンピュータ教育をやっているぐらいで、入社の前に一通りのことはやってくる。それに、自動車の運転が営業の基礎技能であるように、今や、コンピュータは営業の基礎技能だから、そもそもその能力のない者を営業として採用したりはしない。


 問題は高齢者だ。高齢者といってもここではせいぜい40代。私自身40代なわけだが、我々の世代というのは、コンピュータリテラシーの格差が特に激しい。今から20数年前、私がコンピュータをつかいはじめたころは、今のようにコンピュータは「人に優しい」ものではなく、使うのにはかなりの力量が要った。だからこそ、この時代にコンピュータに親しんでいた連中は、今のコンピュータやインターネットなどは、本当に造作もなく扱える。反面、そういう機会にめぐまれなかった側は、結局コンピュータに親しめないまま、企業社会で年齢を重ねていった。こうしたコンピュータに親しめない営業でもなんとかやってこれたのは、この20年間、コンピュータが年々重要度をましてはきたが、コンピュータとまったく関わりのない仕事もあり続けたからだ。


 ところが、ついにこのコンピュータを知らない世代の営業にやらせる仕事が無くなってきた。何年か前までは「私はコンピュータの事、なあんにもわからないんです」と言って、同じくコンピュータがわからないクライアントの共感を買うという営業のありようがあったが、今や、それも効かない。印刷屋の営業にもとめられているのは、コンピュータを使った原稿製作のアドバイスなどの高度なコンピュータ知識なのだから。


 50代以上の方はもう教えてもしかたがないかなという気はする。そのままご引退いただくしかない。40代はまだ10数年、印刷屋としてやっていってもらわねばならない。30代ならなおさらである。ここはコンピュータを覚えてもらうしかない。しかし、どうもこれが思わしくない。小学校からと言わないまでも、コンピュータリテラシーは、若いときの方が身につきやすいらしい。外国語が若いときほど身に付くのはよく知られている。いみじくもコンピュータ「リテラシー」(原義は言語能力)である。それは言語に似て、おそらく若い時に回路が形成されていないとなかなか身に付かないものなのだ。そういう人は他の部署に所属変更をすればと言われるかもしれない。だが、考えてもみて欲しい。コンピュータを使わない部署が印刷会社には「ない」のだから、同じ事なのだ。


 誰のことだって?「あなた」のことかもしれません。



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