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学会の事務は現在いろいろな問題を抱えています。結果として多くの学会で学会運営を代行委託される例が増えておりますが、それは以下のような理由によるものです。
◆学会事務の担い手不足
元来、学会運営とそれに付随する事務は事務局となった大学で幹事の先生が大学院生やアルバイトを指導して行うという形が一般的でした。しかし、学会の規模が大きくなると、このような先生の熱意と善意に支えられたシステムでは必ずしも機能しなくなって参ります。ことに近年、大学においては教育・研究以外の諸業務が教員に課せられることも多く、学会事務を学会幹事の先生にご負担いただくことは極めて困難となってきています。また、主たる学会事務の担い手でもあった大学院生も博士に進む人が近年減少している上に、研究やアルバイトに忙しくなっており、善意のみの負担には耐えられなくなってきています。
◆専従職員の雇用問題
こうした先生・大学院生の負担を減らすために、学会事務を行うアルバイトもしくは常勤専従職員の直接雇用による学会維持が行われてきました。この体制はうまく機能している間は費用的にも安く、業務も安定していますが、職員が1人しかいない場合は、職員の退職や病気などによる一時的な休暇でも、ただちに学会業務が滞ってしまいます。ことに長年勤められた職員ですと、学会の業務が職員個人の記憶と能力に頼っている場合が多く、退職引き継ぎの際など混乱に陥りがちです。結果的に、専従職員の退職の際などには、幹事の先生のご負担が一時的にせよ増大してしまいます。
また、学会が直接雇用した場合は、この方々の賃金、退職金、社会保険、給与の源泉徴収などの事務処理が必要となります。これはアルバイトやパートであっても例外ではありません。人を雇用したがために税金や社会保険の事務が新たに生じることになるわけです。マイナンバー制の発足とともにそうした管理はさらに増大しており、学会の組織維持のための雇用が組織そのものの肥大化を招いてしまうのです。
◆学会業務の複雑化
学会業務については、今までは人格なき社団(いわゆる任意団体)として活動されている場合がほとんどでした。最近では次に述べるように法人格を取得される例が増えています。ただ、人格なき社団であれば社会的責任が免責されるわけではなく、法人格をもつ社団と同じ責任が生じています。近年、そうした責任はなお重くなっています。
ことに個人情報保護法の施行後、個人情報の保護については、一層の注意が必要となっています。不特定の学生や業者が出入りする大学院生控え室のパソコンに無造作に会員データを保管していたりする場合、会員個人情報漏洩の危険性が極めて高くなります。また、不適切な個人情報提供(第3者である出版社への情報提供など)が行われたりすると、あとで問題となる可能性があります。正しい知識をもった適切な個人情報管理が求められます。
また、お金の出入りについては、会員からの経理の透明化への要求が大きく、複式簿記による明確な記載が求められます。また人格なき社団といえど、税務署からの調査がはいるという例を最近よく耳にします。税務調査にたえうるよう、帳簿類は完全に整備しておかねばなりません。学会の税金問題については別途「学会と税金」のベージを設けておりますので、詳しくはそちらをご参照ください。さらに学術振興会などからの補助金については、厳しい経理監査等が要求されています。
こうした、学会業務の複雑化に対しては、ある程度、経理や税務などの専門的知識が必要になり、基本的な経理事務訓練を行っていない事務職員や先生の片手間ではなかなか遂行できなくなってきています。
学会の法人化は2008年の一般法人法の制定以後、急速に進んでいます。それ以前の公益法人格は取得が難しく、よほど大きな学会か、古くに取得された学会しかその例がありませんでした。2008年に新たに制度がスタートした一般社団法人は取得がしやすく、学会の運営基盤強化の上で法人格の取得は必須となってきています。
そもそも法人とは何でしょうか。法人とは、「個人に替わって法律行為をなす団体」を指します。ここでいう法律行為とは、人を雇ったり、物を買ったりすることすべてを含みます。こういった行為は法人格をもたないと本来できないのです。ですから、法人格を持たない団体(人格なき社団)ではその会長、理事長といった代表者がその役割を担うことになります。
これでは会の永続性にさまざまな問題がでてきますし、多額の会費を預かったり、人を雇ったりするのにふさわしいとはいえません。また、あとでも述べますが、税金は法人格を取得していなくても支払う義務があります。法人格をもたない学会は納税の義務はあるが、法律行為をする権利がない団体ということになります。
中西印刷では、司法書士・税理士といった専門家と協力して、学会の法人化をお手伝いさせていただきます。また、法人となられたあとのさまざまな業務にも対応いたします。学会法人化について詳しくはこちらをご覧ください。
こうした問題点を解決するために近年急速に進んでいるのが、学会事務業務そのものを委託するという選択です。当社では永年にわたりこの業務を行って参りました。一口に学会業務といってもさまざまな業務があります。当社で代行実績のあるものを下に列挙します。実際に数え上げると、学会業務とはずいぶん雑多な業務の集合と言うことがおわかりいだけると思います。基本的には学会の予算を決めたり、投稿原稿の採否を決定したりといった判断の必要な業務以外はほとんど代行することが可能です。ただし、代行業務が増えれば増えるほど、費用は増大します。現実的なご選択をおすすめしています。
◆会員管理業務
コンピュータで会員原簿にあたるデータベースを作成維持します。入退会や住所・所属変更などの連絡があるたびにデータベースに変更をくわえ、雑誌の発送や名簿の作成、選挙の原簿作りなどに使用します。学会運営の基本業務にあたる部分です。先にも書きましたように、この業務は明確な個人情報管理であり、厳密なセキュリティが要求されます。また、会員管理は電話にせよ、メイルにせよ頻繁に会員と応対しなければならず、もっともマンパワーを要する部分でもあります。逆に、会員数が多ければ多いほど会員一人あたりの効率はあがりますので、事務代行を考えられる際、まず最初にあげられる業務です。近年ではWEBを使ったオンライン会員管理も一般的になってきました。
◆経理管理業務
お金にまつわる部分です。特に会費請求は一年に一回ですが、膨大な作業が発生します。一般的には郵便振替用紙を会員に発送し、その入金状況を確認し、上記会員データに記載することが求められます。最近では会費徴収に銀行引き落としやクレジットなどという手段もありますが、その元となる会員情報を銀行に引き渡したり、不渡り(預金がなく引き落としできない)の場合の処理など煩雑な事務が生じ、作業削減のための決め手にはなっていません。また、請求後、すべての会員が即座に入金されることはなく、多くの会員が滞納されますので、督促や再請求などの作業も必要となってきます。
もちろん会に入金してくるのは会費だけでなく、投稿者への別刷り代金、広告出稿者への広告料などがあり、これらも適切に請求し入金確認、あるいは入金督促する必要がでてきます。出金の管理も必要となってきます。
なお、これらの入出金は、それぞれの項目毎に整理する必要があり、厳密な管理を行おうとすると、複式簿記で記述する必要があります。複式簿記は全世界で会計を行うために広く行われている方法で、お金の流れを記載する上で、もっとも研究が進み、合理的な方法でもあります。中西印刷が事務代行をお引き受けする場合は、どのように単純な会計であっても複式簿記で行っています。
もちろん、経理管理はお金に関する部分ですから、全てを代行するのではなく、部分的に代行する場合もあります。
◆編集事務業務
学会は学会誌を発行するのが普通です。この学会誌を発行するためには査読や編集・校正といった作業が必要となってきます。確かに、われわれ代行業者は査読そのものを行うことは出来ません。しかし、応募原稿を整理し、指定された査読者に送付し、査読結果をまとめて編集長に報告するといった作業は我々でもすることができます。こうした作業は応募原稿が増えると急に複雑化しかつ仕事量が増大します。中西印刷では、査読管理ソフトを利用するなどこうした業務の省力化をめざしています。
原稿が揃ったのちも、雑誌のかたちにするためには、割付や体裁の統一といった編集作業が必要ですし、校正ゲラができてからは、校正の作業も重要です。基本的にこうした作業は編集部でされるお仕事ですが、内容に関する校正以外、たとえば体裁の統一などは中西印刷でも代行することが可能です。
◆庶務業務
実は学会運営の中で、もっとも重要なのが上記以外の業務です。ここでは庶務と呼称していますが、学会を運営する上でのあらゆる業務をふくみます。ことに運営委員会や幹事会・評議員会といった代議制をとられている場合、この運営に関する業務が非常に多くなります。開催通知・出欠確認・会場設営・議事関係書類作成・当日進行・議事録作成といった作業が生じます。ことに議事関係書類の取りそろえは、場合によっては、一からすべてを調べねばならず、作業量が多くなることがあります。
その他、最近お引き受けした業務だけでも、名誉会員の推薦、賛助会員の募集と御礼、男女共同参画計画、学術振興会助成手続き、学会連合の醸成、学会賞の策定、産学共同計画、学会出版など多岐にわたります。最終的な決定はもちろん学会側で行っていただく必要がありますが、準備作業や事実確認などの代行を行っています。
そして最大の作業としては選挙があります。上記、代議制をとられている場合、選挙の手続きが必要となってきますが、毎年ではないにせよその作業負担は大きい物があります。
もちろん、庶務業務は代行するより、学会側でされる方がコスト的に見合うことがすくなくありません。我々が代行するとなると、どこまで作業すれば充分なのかの見通しがつかないからです。たとえば「名誉会長推薦のために○○先生の会員歴と業績を調べて欲しい」といった依頼があった場合、我々だと、わかるまで倉庫にとじこもって昔の資料と格闘する必要がありますが、会長さんの秘書さんがされる場合だと、会長の記憶を頼りにすることができますし、あまり時間がかかるようだと、途中で中止して他の方法で業績評価を代替することもできるからです。
◆大会業務
学会大会業務は、それ自体が学会事務業務全体に匹敵するほど大きな業務です。ただ、この業務はイベント管理の側面が強く、学会当日に大量にアルバイトを使ったり、宿泊の手配を行ったりといった業務は中西印刷としては直接できません。提携社への発注となります。大会受け付けやプログラムや抄録集作成といった業務は代行することが出来ます。
もちろん、すべての業務を委託する事は、費用的にもかさみますし、小さな学会では、先生方が手弁当で実行されたとしても、それほど手間がかからない場合もあります。総じて学会規模によって対応はわかれます。
◆小規模学会
一般に300人ぐらいまでの学会ですと、業務を委託されなくても、先生方がご自身で事務を行ったり、週1回のアルバイトを雇って行われても充分機能するようです。規模が小さければ、任意団体としてそれほど複雑な書類を作成する必要もありませんし、経理も単純な金銭出納帳で実行できると思われます。
結局この規模までなら、会長から会員個々の顔が見えるのです。個々の学生会員の顔まで見えなくても、その指導教官の顔は見えるでしょう。会費の滞納があれば、指導教官を通じて一声かければ、それで済みます。この規模までは学会事務委託はあまりお勧めしません。もちろん、弊社ではこうした小規模学会でもご利用できるよう考えてはおりますが実例は多くありません。
◆中規模学会
問題は会員数が300人を超えてきた場合です。もうこの規模になると会員の顔は見えません。誰も知らない会員が入会し、会費を滞納したまま、学会誌に投稿してやめていくといった事例がでてきます。誰が会費や投稿料を取り立てるのか、滞納何年で会誌の配布をストップするのかという煩雑な事務処理が生じます。いよいよ学会業務の委託を考えられる時期です。
ただ、学会事務の費用は単純に会員数に比例するわけではありません。大きくても小さくても必要な学会を運営するコストはあまりかわりません。300-800人ぐらいまでは、委託すると高くつきすぎるし、委託しないと手間が増えすぎると悩まれることと思います。こういった場合、絶対的に人手の必要な会員管理のみを委託され、一般的な会の運営、いわゆる庶務業務は自ら行われることお勧めします。
それでも、800人を超えると限界が近づいてきますし、会員数1000人というと、会の予算規模もふくれあがり、業務委託なしではおそらく不可能です。こうした場合、ある程度定型にはなりますが、事務委託をされることで非常な効率化が望めます。そして、3000人くらいになりますと、業務委託をしても、会の財政基盤が固まってきますので、非常に楽になってきます。
◆大規模学会
この上、10000人を超えてくると、業務委託より自前で事務所を構えられる場合が多いようです。この規模になりますと、予算規模も大きく、事務員を複数雇用できますので雇用に関する問題が少なくなりますし、元々、法人化されている場合がほとんどですから、種々の労務や税務問題は解決がついてきます。なにより、この規模になると、事務代行のような定型業務では過不足が目立つようになり、独自の運営の方が有利となってくるからです。ただ、労務問題や専門性問題からこの規模でも委託される場合は段々増えてきています
学会事務代行業務は2004年の財団法人学会事務センターの倒産で、皮肉にも脚光を浴びることになってしまいました。その後、学会事務センターの業務を引き継いだメディイシュという会社も2006年に学会事務部門の閉鎖を発表し、多くの学会が混乱におちいりました。学会事務センター倒産は種々の原因が取りざたされていますが、基本的には学会事務代行だけでの事業が成立しにくいことの証左でもあります。
学会事務代行は印刷業のような工業ではなく、完全なサービス産業です。工業の場合、人件費以外の諸経費がかさみ、相対的に人件費の多寡が全体経費にしめる割合はちいさいものです。対して学会事務のようなサービス業ではコンピュータ関係の設備をのぞけば人件費のみが経費という商売となります。サービスを高めれば人件費がかさみすぎるという問題を常に抱えています。経験的に、学会事務業務の作業量は増大こそすれ、減ることはありません。事務代行をお引き受けした時点では、学会側にも学会運営のノウハウがある程度は蓄積されているのですが、会長が何代か替わられた後は、すべて事務代行側で行う必要があり、急速に作業量が増大していくからです。こうした場合の費用算定は非常に困難となってきます。
中西印刷はこうした学会事務専業の問題点に鑑み、印刷業務との兼業というかたちで学会事務代行をお引き受けしています。印刷物と同時に事務を引き受けることで発送などの効率化が行えますし、印刷物の仕掛かりを担保にして発送費や人件費などの資金繰りを確保することができます。そうした上でも、独自の学会部門をもつことで、専業者とかわらない経験と実績をもてます。
中西印刷は学術物印刷業に特化しており、特に、多言語処理、漢字分野、数式組版等に特色をもっています。活版時代は、多数の漢字活字を有することで、京都大学人文科学研究所等の東洋学文献を多数てがけてきました。第6代社長中西亮(1928~1994)は、文字と組版に対する深い造詣をもち、1960年代から70年代にかけて、ビルマ文字、モンゴル文字などの活字までも収集し、言語学組版という分野を育てました。当時、西夏文字活字を有するのは、全世界で中西印刷だけでした。
活版はその後、電算写植、やがてはDTPにとってかわられることになりますが、中西印刷の組版の伝統を引き継ぐべく、「活字で可能であった組版をすべてデジタル印刷の時代にも実現する」ことをめざしてきました。この過程で独自に開発した漢字フォントも数多い。この活版から電算への移行経緯については、現専務 中西秀彦(1956~)が「活字が消えた日」(晶文社1994)「学術出版の技術変遷論考」(印刷学会出版部 2011 同氏博士論文(大阪市立大学))として著しています。
現在、学会誌の印刷は70余誌、学会事務代行は30数学会に及ぶなど、単なる学会専業の印刷業としてだけでなく、学会に関するあらゆる業務を行うという総合サービス業へと業態をシフトしております。また、紙のない印刷、オンラインジャーナルサービスについても、15年以上実績を積み重ねており、Oxford UniversityPressとの提携を経て、中西印刷独自でオンラインジャーナル用XML作成システムを完成させ、世界初の日本語オンラインジャーナルを送り出すなど、この業界では他の追随を許さない実績を誇っています。日本最大のオンラインジャーナルであるJ-STAGEへのデータ供給では日本のトップシェアを保っています。